▲有明はたいふもおろかなり。
七月ときたらバカみたいに暑いので、屋敷中を全開にして夜を過ごすのだけれど、月が出ているころにふと目が覚めて空を眺めるのはステキだ。月が出ていない闇夜もなかなか。夜明けの白んだ空に浮かぶ月の風情に関しては、もはや言うまでもない。
ピカピカに磨き上げられたフローリングの端近くには、真新しい畳が一畳敷いてある。1メートルほどの幅のパーテーションが部屋の奥の方に押しやられているのは、どうもおかしな感じ。
本来、外からの目隠しに使うので、窓際に置くべきなのに。家の外からよりも家の奥から注がれる視線のほうが気になるということなのかしらね。
男の人は帰ってしまったのだろう。
裏地は色がとても濃く、表は少し色が褪せたような薄色(うすいろ・写真参照)の衣を着ているのか、もしくは濃い光沢が色褪せてしまった綾織物を頭まで引き被って女が寝ている。
下は丁子(ちょうじ・クローブ)で染めた単、もしくは黄色の生絹(すずし・生糸で織った練られていない絹織物)の単を着ており、紅色の単袴(ひとえばかま・裏をつけない夏用の袴)の腰紐が長々と衣の下から延びて出てきているのを見ると、まだ着物がほどけたままの状態のようだ。
彼女の傍らに髪がまとまってふんわりと波打っている様子で、髪の長さが推し量られる。
そこへどこからかまた別の男がやって来た。夜明けの濃霧の中、二藍(ふたあい・第35段の写真参照)の指貫(さしぬき・袴)に、ごくごく淡い丁子染めの狩衣(かりぎぬ・一般公家の日常着)を着て、霧に濡れて白い生絹に紅色が透けて見える艶めかしい単は半分脱いだ状態。
ヘアスタイルも少し乱れていて、烏帽子をむりに頭に押し込んだ姿はちょっとだらしない。