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第25段◆すさまじきもの【前編】

  判るような判らないような

必読ものづくし日常

あてが外れてがっかりするもの。

昼間に吠える犬。季節外れの春に仕掛けられた漁具。三・四月の紅梅色の着物。牛が死んでしまった牛飼い。赤ん坊が死んでしまった産室。火を起こさない火鉢や囲炉裏。女性が就任できない大学寮の博士が、続けて女子を儲けたとき。
方違え(かたたがえ・目的地の方角の縁起が良くない際、前夜に別方角へ出向いて一泊してから目的地へ向かう手法)に出掛けた先で、もてなしてくれないとき。まして節分の時にそうだったら尚更がっかり。

吠える犬
▲すさまじきもの。昼ほゆる犬。

地方から送って来た手紙に、贈り物が何も添えられていないとき。京の都から地方に送られる手紙だってそうじゃないの、って思うだろうけれど、京の都からの手紙には耳寄りな話が書き連ねてあるのだし、都の情報だって知ることができるのだから充分。別にそれでいいのよ。

人のもとへわざわざ念入りに丁寧に書いた手紙を送って、返事を待つときに、
「今頃返事を運んできている途中だろう。それにしてもやたら遅い…」
と待っていたところ、その手紙が立文(たてぶみ・正式な書状)であっても結文(むすびぶみ・略式の書状)であっても大変汚らしくなっており、紙はけば立ってるわ、封印のために引いた墨も消えちゃっているわで、もう…。

それで「不在でした」とか「物忌(ものいみ・陰陽道の風習で凶日に外出を慎み、家に籠ること)で受け取ってもらえませんでした」とか言って手紙を持ち帰って来るのは、とっても情けなくてがっかりする。

手紙
▲人の許にわざと清げに書きてやりつる文の返事…

また、必ず訪ねて来ると約束した客人のところに迎えの車を遣って待っていると、車が戻って来る音がする。
「来たみたい」
と人々が出て行って見てみれば、車はそのまま車庫に入ってしまって、轅(ながえ・牛車の前方に長く突き出た二本の棒)を下ろしてしまったので、
「どうしたの?」
と尋ねたら、
「今日はよそへお出掛けになるそうで、お越しになりません」
とか答えて、牛だけ車から外して行ってしまう。これもがっかりだ。

牛車の置物
▲またかならず来べき人の許に車をやりて待つに…

また、家の婿が通って来なくなるのは、大変面白くない。高い身分で宮仕えをするような女性に婿を横取りされて、恥ずかしいと思っている妻の姿も非常につまらない。

赤ちゃんの乳母が、
「ちょっとの時間だけ」
と言って外出している間、あれこれ手を尽くして赤ちゃんをあやし、
「早く帰ってきて」
と催促の使いを遣ったところ、
「今日は行けません」
と返事を送って来たのは、がっかりを通り越して憎たらしくて仕方がない。
女が来るのを待っている男がこんな目に遭えば、ましてどう思うことか。

泣く赤ちゃん
▲ちごの乳母のただあからさまにとて出でぬるほど、とかく慰めて…

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