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第31段◆こころゆくもの

  日常のちょっとした満足

ものづくし

心が満足するもの。

素晴らしい物語絵で、筋書きの素敵な言葉が多く書かれているもの。
物見遊山の帰り、牛車の端から衣装をのぞかせ、お供する男がたくさん連なって、牛を上手く扱う従者が牛車を走らせるのも。

真っ白新品の高級和紙の檀紙(だんし・陸奥紙)に、極細の文字で手紙を書いたとき。綺麗な糸をふた筋合わせて繰ったものも。

サイコロをふたつ振って、同じ目が何度も揃って出るとき。呪文を上手に唱える陰陽師を伴って河原に出て、呪詛のお祓いをしてもらったとき。
夜、目が覚めて飲む水。

サイコロ
▲てうばみに、てう多く打ち出でたる。

ヒマなときにそれほど親しいわけではない人が訪ねて来て、世間話がてら昨今の面白い話やイヤな話や不思議な話を、あれやこれやと、公的な話でも私的な話でも曖昧ではなく、聞きやすく話してくれるのは、とても気持ちが晴れるものだ。

神社や寺に詣でて祈祷をしてもらうときに、寺ならば僧侶、神社なら禰宜(ねぎ・宮司の補佐役)といった人たちが、思っていたレベル以上に私たちの願い事を、はっきりとよどみなく速やかに唱えてくれたときもそう。

おしゃべりを愉しむ女性たち
▲公私おぼつかなからず聞きよきほどに語りたる、いと心ゆくここちす。

第32段◆檳榔毛は

  車はスピードが命!?

 

檳榔毛(びろうげ・第8段の写真参照)の牛車は、ゆっくりと走らせるのが良い。急いで走らせると重々しさが欠けるから。

網代車(あじろぐるま・屋形に竹やヒノキの網代を張った牛車・画像参照)は、スピードを出したほうが良い。
門前を通りかかった牛車が、確認する暇もなくすぐに通り過ぎて行って、お伴をしている従者の走る姿だけが見えるのを、
「今の車は誰が乗っていたのかしら」
と想像するのが楽しいのだ。

のろのろと進むようでは、てんでなってない。

画像引用:wikipedia/663highland(http://urx3.nu/pJ4k)

網代車
▲網代は走らせたる。

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