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第38段◆池は

  怒涛のものづくし・池編

ものづくし

池といえば、勝間田の池(かつまた・奈良県奈良市)。盤余の池(いわれ・奈良県橿原市桜井市)
贄野の池(にえの・京都府井手町)は、長谷寺(はせでら・奈良県桜井市)に詣でた時に通りかかったのだけれど、たくさんの水鳥がぎゅうぎゅうに群れていて騒がしく鳴いていたのが、とても風情があったわね。

水なしの池(京都府井手町)とはこれまた奇妙な名前。名の由来を尋ねたところ、
「五月ごろ、例年より多雨な年の場合は、この池から水が消えてなくなってしまいます。逆に日照りの年の場合は、春の初めに池が水でいっぱいになるからです」
と言ったので、
「ずっと水が無くて、いつも池が干からびているのであればともかく、水で満たされる時季もあるのに、一面的な理由で命名しまったのね」
と返したくなった 。

水が無くなった池
▲水なしの池こそあやしう、などてつけけるならむとて問ひしかば…

猿沢の池(さるさわのいけ・奈良県奈良市)は、采女(うねめ・天皇の食事係の女官)が身を投げた池だとお聞きになった天智天皇が、彼女を悼んで池までお出ましになったというのが素晴らしい。

「吾妹子が寝くたれ髪を猿沢の 池の玉藻と見るぞ悲しき」
(※可愛らしい人の寝乱れた髪を、今後は猿沢の池の藻として見なければならないのは悲しい)
と天皇のお伴をした柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ・飛鳥時代の歌人)が詠んだことに思いを馳せれば、言うまでもなく趣きがあるわね。

猿沢の池
▲猿澤の池は采女の身投げたるを聞しめして、行幸などありけむこそ、いみじうめでたけれ。

御前の池(おまえ・場所は不詳)は、何を思ってそう命名したのか知りたくなる。鏡の池(場所不詳)
狭山の池(さやま・大阪府大阪狭山市)は、
「恋すてふ狭山の池のみくりこそ 引けば絶えすれ我や根絶ゆる」
(※狭山の池のミクリを引き抜けば根が切れて枯れてしまう。私の恋も彼の通いが絶えてしまうことがあるのだろうか)
の和歌がステキなので、覚えているわ。

こひぬまの池(場所不詳)。原の池(場所不詳)は、
「鴛鴦たかべ鴨さへ来居る藩良の池のや 玉藻は真根な刈りそや…」
(※古代、地方の国々に伝承されていた風俗歌。意味は「オシドリやコガモ、カモが集う原の池で、鳥が水草を必死で採っている。水草を採らないで。根こそぎ採ると水草がなくなってしまうから」)
という歌があるのでなんかイイ感じ。

狭山池
▲狭山の池、三稜草といふ歌のをかしきが覚ゆるならむ。

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