▲やうやう白くなりゆく山ぎはすこしあかりて
春は夜明けが良い。だんだん夜が白んでいくうちに、山の上の空が少し明るくなり、薄く紫色に染まった雲が細くたなびいているありさま。
夏は夜が良い。月が出た夜はもちろん、闇夜であってもホタルがたくさん飛び交っていると素敵。またたった一匹や二匹が、ほのかに光って飛んで行く様子も趣がある。雨の夜も捨てがたい。
秋は夕暮れが良い。夕陽がさして、もう山の端に落ちるかどうかという時間、カラスが塒(ねぐら)へ帰ろうと、三羽四羽、二羽三羽と飛び急ぐ姿ですらしみじみとさせられる。まして雁などが連なって飛ぶのが大層小さく見えるのは趣深いものだ。
陽が沈んでから聞こえて来る風の音や虫の声などは、今更言うまでもないであろう。
冬は早朝が良い。雪が降った朝はもちろんだが、霜が下りて真っ白になった朝でも、そうでなくとも、火などを急いで起こして炭を配ってまわる様子は、冬の朝の景色ならではのふさわしいものだ。
昼になって寒さが緩んでくると、火桶の火も白い灰だらけになってしまうのでみっともない。
時節は正月、三月、四月、五月、七、八、九月、十一、十二月。全て折々に触れて一年中すべて趣がある。