人を待っていて、夜も少し更けたころ。静かに門を叩く音にちょっとドキドキしながら人を遣らせて対応させてみれば、お目当ての人ではないどうでもいい人が名乗って来たのも、返す返すがっかりするというかバカバカしい。
修験道の行者が物の怪を祈祷でやっつけようと、そりゃもうしたり顔で独鈷(とっこ・仏具のひとつ、写真参照)や数珠を持たせて、セミのように声を枯らして読経するけれども、全く物の怪が姿を見せる様子がない。護法童子(ごほうどうじ・仏法を守護するために働く童子姿の鬼神)も出てきやしない。
集まって念じ祈っていた男どもも女どもも、
「どうもおかしいぞ」
と感じるものの、行者は長時間読経し続けて疲れてしまい、
「全然護法童子が憑かないじゃないか。立ちなさい」
と言って数珠を取り返す。そして、
「ああ、全く読経が効かないや」
と言いながら髪を掻き上げて、あくびをして何かに寄り掛かって眠ってしまう姿こそ、がっかりだ。
画像引用:株式会社三佛堂櫻井商店(http://www.sanbutudou.com/Pages/default.aspx)
めちゃくちゃ眠いときに、たいしたことのない人が揺すって起こして話しかけて来るのは、とんでもなく不快だ。
除目(じもく・人事異動)で官職を獲得できなかった家も興ざめ。
今年こそは間違いない!と聞き及んで、以前その家に仕えていて今はよそへ仕えている者や田舎に住まう者たちが皆集まって来て、家を出入りする牛車の轅もひっきりなしに見える。主人の出世祈願のお伴にも我も我もと従って列を作り、物を食べ、酒を飲み、わいわい騒いでいるのだ。
それなのに除目の発表が終わる夜明けになっても門を叩く音もせず、
「妙だなあ」
と耳をそばだてて聴いていれば、先導の先払いの声がして上達部たちが皆、宮中から退出してしまうではないか。
様子を探りに宵のうちから寒さに震えつつ宮中へ行っていた下男が、どんよりとしょげた顔で歩いて帰ってくるので、結果はどうだったかなんて問うことすらできる雰囲気ではない。
それでもよそから来た人たちが、
「殿は何かの官職に就けましたか」
と尋ねれば、
「以前はどこそこの知事でした(以前の知事職に返り咲けなかった)」
と返すのがお決まりである。
心底頼みにしていた人たちにとっては、絶望のどん底だ。
夜が明けて、屋敷に立錐の余地なく居た人たちも一人、二人とこっそり立ち去ってしまう。古参の人で、今更この家を離れるわけにもいかない者たちが、来年知事に欠員が出る国の数を指折り数えて、よたよた歩きまわっている姿も、なんだか惨めでがっかりさせられるものだ。