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第28段◆にくきもの【後編】

  憎たらしいものがたくさん!

必読ものづくし日常

話を聞こうとしたら泣きだす子供。カラスが集って飛び交いながら、ざわめき鳴いているのも嫌なものだ。

人目を忍んで訪ねて来る男のことを覚えていて吠えかかる犬。
人に見つかると困る場所にそっと招き入れて一緒に寝た男が、大いびきをかいて寝ているのもムカつく。

また人目を盗んでやって来た男が長烏帽子(ながえぼし・丈の長い烏帽子)を被っていて、さすがに人に見つからないように苦心して家の中に入ったものの、長烏帽子が物に当たって物音を立てる様子も。
愛媛のスダレを懸けているところなどを、くぐろうとしてさらさらと音を立てるのも非常に憎らしい。

無数に飛び交うカラス
▲烏の集まりて飛び違ひさめき鳴きたる。

まして高級品の帽額(もこう)の簾は、簾の端に付いた板が音を立てて、これがよく響くのだ。それでも簾の裾を引き上げて入れば、音が鳴らないのに。
引き戸を荒っぽく開けるのもダメ。少し持ち上げるようにして開ければ、音なんか出るはずもないでしょうに。
開け方が悪いと、障子なんかもガタガタ音を立ててしまうのだ。

眠たくて横になっているところへ、蚊がぷううんとみすぼらしい羽音を立てて名乗り出てきて、顔のまわりを飛び回るのはイヤ。身の程にも似合わず、羽風まであるのがすんごくイヤ。

障子
▲あしうあくれば、障子などもこほめかしうほとめくこそしるけれ。

キシキシと音を立てる車を乗り回す人。耳が聞こえないんじゃないかしらと思ってしまうくらいにホント憎たらしい。そんな車に自分が乗り合わせたら、車のオーナーまで憎んでしまいそう。

また喋っている時に出しゃばってきて、ペラペラと独演会をする人。出しゃばりな人って、子供だろうが大人だろうが皆イヤだ。
ちょっと訪ねて来た子供たちを可愛がって、素敵なモノを与えたりしていると、だんだん図々しくなり、いつも入り浸るようになって部屋の中を散らかして行くようになるのもむかっ腹。

家に居ても出仕中でも会いたくない人がやって来た時に狸寝入りを決め込んだら、身内の者が起こしに来て、ぐうぐう寝ているわねと思っていそうな顔つきで身体を揺さぶって起こそうとするのはイラッとする。

新参の女房が古参を差し置いて、物知り顔で教えるようなことを言い、後輩の指導をしようとするのもなんだかなあと思う。

後輩の指導をする女性
▲今まゐりのさし越えて物知り顔に教へやうなる事言ひ、後ろ見たるいとにくし。

付き合っている男がモトカノのことを褒めたりするのも、時間が経った昔のことだとはいえやっぱりムカつく。まして今でも関係が続いているとしたらそりゃもう!って思うのね。
でもモトカノの話をされても、さほど腹が立たないパターンもあったりする。

くしゃみをして呪文を唱える人。そもそも一家の主人以外の者が大きなくしゃみをするのは、非常に憎たらしいものだ。ノミも大変憎い。服の下で跳び回って、服を持ち上げるかのような動きが。

たくさんの犬が長々と遠吠えする様子も、禍々しさすら覚えてイヤ。
ドアを開けっ放しで閉めない人もイライラする!!

会話するカップル
▲されどなかなかさしもあらぬなどもありかし。

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