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第85段◆物のあはれ知らせ顔なるもの

  短くも滑稽な段

ものづくし滑稽

悲哀がひしひしと伝わってくる顔は――
鼻水を垂らし、ひっきりなしに鼻をかみながら話す声。
眉毛を抜くときの顔。

鼻をかむ男
▲はな垂り間もなうかみつつ、もの言ふ声。

第86段◆さてその左衛門の陣などに

  あんたダサいって言われた清少納言

宮廷サロン

さて、左衛門の陣(建春門・第78段の写真参照)に行ったあとで、里帰りしてしばらく経ったころ。
中宮定子から「早く参内を」と書かれた手紙が届き、その紙の端っこに、
「『左衛門の陣に出掛けて行ったあなたの後ろ姿がいつも思い出される』
って、中宮定子さまがおっしゃっていたわ。
でもどうしてあんなババ臭い恰好をしていたのよ? それとも自分では超イケてるファッションだと思ってたの?」
と書いてあったの。

返信には「恐縮です」と記し、端っこに書いてあった私信に対しては、
「私がイケてないわけないでしょ! それにあの朝の風景ったら、中宮定子さまだって『中なる乙女』の和歌のように、私の後ろ姿を見惚れておられたとばかり思ってましたわ」
って書いて送り返したのよ。

(※「中なる乙女」…第83段にも登場した「うつほ物語」で藤原仲忠が詠んだ歌。「朝ぼらけほのかに見れば飽かぬかな 中なる乙女しばしとめなむ」◆朝ぼらけの霞みの中でほのかに見えたのは、見飽きることがない美しい乙女。もうしばらく見ていたいのに)

朝ぼらけの後ろ姿
▲左衛門の陣へ行きし後なむ、常におぼしめし出でらるる。

するとまた返信が来たわ。
「それじゃあまるで、あなたがとってもひいきにしている藤原仲忠の和歌も台無しじゃないの。イミフなこと言ってないで、今夜のうちに、絶対に参内しなさいよ。じゃないと、中宮定子さまから絶縁されるかもよ?」

こう書いてあったので、
「お叱りを受けるどころか、絶縁となればそりゃ大変! 命もこの身も振り捨ててすぐに参内します」
と返信して、参内したわ。

びっくりする女性
▲まいていみじうとある文字には、命も身もさながら捨ててなむとて、まゐりにき。

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