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第76段◆内裏の局、細殿いみじうをかし

  清少納言お気に入りの場所

評論日常

内裏の局(つぼね・女性の居室として仕切った部屋)の中だったら、細殿(ほそどの・廂の間を仕切った女房の部屋。この場合は西の廂の間。第8段の写真参照)がとってもお気に入りの場所。
上の蔀(しとね・写真参照)が上げてあるので、風がびゅーっと吹き込んできて、夏でもかなり涼しいの。冬は雪やら霰(あられ)やらが風に巻かれて吹き込むけれど、これもとっても風流なのよ。

細殿は狭いけれど、里から子供とかが参内した場合、良いことではないけれど屏風の内側に隠すように座らせておくの。中宮定子がいらっしゃる場所から遠くないので、他の局にいる時のように子供たちが大声で笑ったりせず、大人しくしているってのもイイわぁ。

蔀
▲上の蔀上げたれば、風いみじう吹き入れて夏もいみじう涼し。

細殿では昼でもしっかり気を張る必要がある。夜はなおさら。男性が訪ねてくるかもしれないと思うと、気を抜けないのよね。でもそれがまたイイのよ!
警備で巡回する人などの靴の音が一晩中聞こえてくる中で、靴音がピタッと止まって、扉を指でコンコンとノックするの。その音で誰それが来たって判っちゃうのも面白いでしょ。

ずーっとコンコンと扉を叩けど、無反応だった場合は、
「もう寝てしまったのかな」
と相手が思うだろうから、それも忌々しい。わざと少しだけ身動きして衣擦れの音を立てれば、相手も、
「あ、起きてるんだな」
と気付くでしょうよ。

冬だったら火鉢に刺す火箸の音ですら、周囲に気遣って控えめにするものなのに、そんなのお構いなしに扉をドンドン強く叩いたりするものだから、
「静かにして」
と声に出して制する女房もいるわ。
そんな様子をね、そーっと物陰から滑り寄って、私は聞き耳を立てたりするの。

たぬき寝入り
▲音もせねば、寝入りたりとや思ふらむと…

また、大勢で詩を読んだり歌などを歌う時は、ノックされるまでもなく先に扉を開放しておくんだけれど、そうするとここに来ようと思っていない人までも、つい足を停めて立ち寄ってしまうみたいね。
でも座るスペースがなくて、立ったままで夜を明かすこともあるんだけど。それはそれでまたイイ感じ。

局の御簾(みす・間仕切りのカーテン)は濃い青色でステキなの。几帳(きちょう・布を垂らしたパーティション)の布地も色鮮やかで、その裾が重なって見えてて。

そこに直衣(のうし・皇族や貴族の平服)の背中の縫い目がほころんでしまっている若君たちや、六位の蔵人が黄緑色の服でやって来るの。
それで慣れた感じで戸のそばで身を寄せて立つなんてこともできずに、外の塀の方に背を向けて袖をちゃんと揃えて立っている姿、これも見栄えがするわ。

青
▲御簾のいと青くをかしげなるに…

また、指貫(さしぬき・袴)の色は濃い紫で、直衣も色鮮やかで、色とりどりの重ね着の袖が袖口から見えているオシャレな男が、簾の端を中に押し入れて、半身だけ室内にある姿も、外から見るとなかなかサマになっている。

しかも綺麗な硯(すずり)を引き寄せて手紙を書いたり、鏡を借してもらってヘアスタイルを直している様子なんかも、全部絵になるのよねえ。

1m弱の高さの几帳を立ててあるのだけれど、横木と布の間に少しだけ隙間があるのよね。(写真参照)
外で立っている男と室内にいる人が話す時に、ちょうどこの隙間が二人の顔の位置にぴったりなのも面白い。身長が高かったり低かったりすると、どうなのかしらね。でも中背の人だと、やっぱりジャストフィットの高さなのよ。

几帳の横木と布の間の隙間
▲帽額の下にただすこしぞある…

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