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第70段◆おぼつかなきもの

  心細くなる4つのことがら

ものづくし

不安で心細くなるもの。

十二年間山籠りをしている僧侶の母親。

顔なじみではない人の家に月が出ていない夜に行ったとき、従者たちが姿をありありと露わにするのは良くないと思って、灯りも点けない暗がりの中で、それでもずらりと並んで控えているのも、従者たちの気分からすれば不安に感じるものなのでしょうね。

最近勤め始めた従者で、その仕事ぶりもまだよく判らない段階なのに、大切な物を持たせて人のところに遣いにやったところ、従者の帰りが遅い時。

まだ言葉も話せない赤ちゃんが、人に抱かれるのを嫌がり、背中を逸らせて泣いている様子も不安に駆られるわ。

泣いている赤ちゃん
▲物もまだ言はぬ児のそりくつがへり人にも抱かれず泣きたる。

第71段◆たとしへなきもの

  対になるものの羅列

ものづくし

正反対なもの。

夏と冬。
夜と昼。
雨が降る日と太陽が照る日。
人が笑うのと腹が立つのと。
年老いている人と若い人。
白と黒。
思いを寄せる人と憎む人。
同じ人なのに自分を愛してくれていた時と心変わりしてしまった時では、まったく別の人なのかと思っちゃう。
火と水。
太った人と痩せた人。
ロングヘアとショートカット。

白と黒
▲白き黒きと。

第72段◆夜烏どものゐて

  鳥のおっちょこちょいな瞬間

自然

夜にカラスたちが木に止まっていて、夜中あたりに、寝ながら騒いでる。木から落ちそうになってアワアワと枝を伝って歩き、寝起きの声で鳴く様子は、昼間の感じとは違っていて笑えちゃう。

夜のカラス
▲夜烏どものゐて、夜中ばかりにいね騒ぐ。

第73段◆しのびたる所にありては

  夏と冬、それぞれの鳥の声の趣き

自然

人目につかないように逢い引きするなら、やっぱり夏よね!
とっても短い夏の夜が早くも明けてしまったので、結局一睡もせず。どこもかしこも全部開けっ放しでいたので、涼しげに庭を見渡せるの。

夜は明けたけれどやっぱりまだもう少し喋りたいので、会話の受け答えをしていたら、座っている真上をカラスが高らかに鳴きながら飛んで行くんだけれど、これって何だか昨夜からのふたりをありのまま見られていたかのような気分になって、おかしいわね。

また極寒の冬の夜、夜着に埋もれて寝たまま耳をそばだてていると、鐘の音がまるで物の底で鳴り響くかのように聞こえるのが面白い。

ニワトリの鳴き声も最初は羽の中で鳴いているけれど、くちばしを突っ込んでいる状態で鳴くのよね。だからとても深く遠くから聞こえる感じなのに、夜が明けてくると近くで鳴いているように聞こえるのが趣きがあるわ。

ニワトリ
▲鶏の声もはじめは羽のうちに鳴くが、口を籠めながら鳴けばいみじうもの深く遠きが、明くるままに近く聞ゆるもをかし。

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