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第87段◆職の御曹司におはします頃、西の廂にて【その6】

  賭けに勝ったのはどっち?

日常宮廷サロン

中宮定子は、
「ここまで思いつめていたのに、台無しにしてしまったからには天罰が下るかもしれないわね。
実はね、十四日の夜に、侍に命じて残っていた雪を捨てさせたの。あなたの返信で誰かが雪を捨てたって言い当てていたでしょ。あれ、ホントウケたわ~。

庭師の女が出て来て、必死で手をこすり合わせながら『やめて~!』って言ってたけど、『中宮定子の命令だ。清少納言にこのことをチクるなよ。チクったらお前の家ぶっ壊す』とか言って脅して、左近の司(さこんのつかさ・宮中の警備や行幸の際の警護に当たる役所)の南の土塀辺りに、雪を全部捨てさせたのよ。

解体される家
▲さらば屋打ち壊たむ。

『雪がめっちゃ固くて、まだたくさん残ってました』って言っていたから、本当に二十日までくらいは残ったかもしれないわね。おまけに今年の初雪までも更に降って積もりそうだったし。

帝もこの話を耳にされて『清少納言はよくよく考えを巡らせて、孤軍奮闘したね』なんて、殿上人(てんじょうびと・五位以上の人および六位の蔵人)たちにおっしゃっていらしたそうよ。

とにもかくにも、その傑作和歌とやらを披露しちゃいなさいよ。今となっては全てネタバレしたんだから、あなたの勝ちも同然でしょ 」
だとかかんとかおっしゃられるし、皆もそう言うけれども、私は、
「そんなドッキリ話を聞かされて、今更申し上げられるはずもないでしょ…」
なんてマジで落ち込んでしまったわ。

絶望
▲まことにまめやかにうんじ心憂がれば…

そこへ一条天皇がお見えになって、
「いやまったく、かねがね清少納言は中宮定子お気に入りの女房なのだと思っていたけれど、それも怪しくなってきたね」
だなんておっしゃるものだから、私、ますます情けなくって、もう泣いてしまいたい。

「ああもう、世間がツライ。後から降り積もった雪を喜んでたのに『それノーカン。捨てて』なんて言われましたっけ…」
と申し上げたら、一条天皇は、
「お前に勝たせたくなかったんだろうね」
とおっしゃって、ゲラゲラ笑うのよ、もう!!

ニッコニコ笑う
▲上も笑はせたまふ。

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